top of page

VESPA

ビンテージベスパについては多くの誤解があるように感じます。

皆様の多くは、このオートバイをおしゃれアイテムと認識し、小粋に乗りこなせると軽く考えているかもしれませんが。

最初に申すべきは、これはレーシングアイテムであり、現在において、新品エンジンのツーサイクルを手にいれる好奇であり、レーシングカートを一台ガレージにおくことであるとお断りしておきます。

オーナーとなるべき方の条件は、ひとことでエキスパートであること。これはなにかといえば、あらゆる経験を切り抜けてきて、なおも今でもレーシングスピリットを失っていない方。という定義です。

つまりは、初心者の方々、女性などには全くもって乗りこなすことができませんので、近づかないようお願いします。

今何が起きているのか?それを肌感覚でわからないと、その直後に起こることすら予想できません。

快調に思えた直後、焼き付きでハイサイドぶっ飛び。実際に普通にあることです。

​旧車に乗るということはそういうことです。

​より良きベスパライフへの序章

ここからは、真剣にこのオートバイと向き合いた方に向けて、本気のお話をしますので、長くなります。

お時間と覚悟のない方は、ここらで切り上げてください。

 

まずビンテージベスパですが、オリジナルというものと、再生産物に分けられます。

この再生産モデルでさえ、生産から30年くらい経っていますから、もしなにか転がっていて、「あげようか?」という良心的な前のオーナーさんがいたとしても、そのまま乗れるとは夢ゆめ考えないようにおねがいします。

 

自分のもとに来た、または自分でロクに乗らずにずっと持っている車両であったとしても、始まりはエンジン全バラを前提にしてください。

そのもっとも重要なアキレス腱をこれからお話ししましょうか。

 

良いエンジンの三条件は皆様ご存知でしょうか?

良い圧縮。良い火花。良い混合機。という基本のキ。をまず頭の隅の置いてください。

​圧縮のワナ

最初の良い圧縮。これは目に見える範囲だと、ピストンやリング。そしてガスケット。このあたりのことを考えることと思います。これはあくまで目に入る範囲の圧縮です。

​

ツーサイクルエンジンは、まず最初に一次圧縮という工程があります。

これは入ってきた混合機が、クランクケース内でまず圧縮され、そして送気ポートからシリンダーに入り二次圧縮がかけられ、晴れて爆発します。ここで重要なのは一次圧縮の工程における適切なドラマ。

その密着を担うのは、ベスパではクランクケースのオイルシールというものです。

​

なんだよ、じゃぁシールくれぇ替えりゃぁいいわけだろう?と軽く考えます。

実はベスパのシールは、フライホイール側のわりと交換しやすい側と、反対側にもあります。問題なのはこの反対側ですが。このシールはクランクケースを割って、クランクを取り出して、なおも中側に、なんと内側から打ち込まれています。

ということは、過去に一度もエンジンを割ったことがない車両のシールは、最終型でも30年。オリジナルなら軽く50年交換していません。ゴムですよ?保つと思いますか。

まして、長期に寝かして、カッサカサのエンジンに、間違って火が入ったとしたら。このプラッチッキーなゴムのシールはバラバラ砕け、エンジンの中に落ちます。

 

さぁどうですかみなさん。古いベスパでエンジンはかかるけど、チョークを引いていないと止まるエンジンに身に覚えがありませんか?

これはいうまでもなく、クランクのシールが不良で、混合機が薄くなっている症状に違いありません。

いやぁ奇跡的にそれが、現在普通にエンジン掛かるんすよ。何言ってるんですか?じきにそれダメになりますよ。

​パワーへの導火線

続いて良い火花に関して考えましょうか。

ベスパの火花は、フライホイールが回ることで、中のフィールドコイルとの間に磁力が生まれて、電気が出来て、それをイグニッションコイルに供給して初めて、火花が出ます。その途中には、コンタクトポイントと、コンデンサーというものがあります。

多くの皆様が、これを対処するのは、新しいプラグに替えて、少しものがわかる人はプラグコードとキャップを替える。まぁこれは定番の整備でしょう。

​

少しマシな整備工場では、ポイントくらいは見たり替えたりするかもしれません。

しかし多くの整備士は、コンデンサーという、わずか10年で内部の容量が抜けてようをなさない部品は疑いません。

少し真剣な工場が、コイルと、コードとポイントとコンデンサーまで替えたとしましょう。ソレでもどうにもエンジンがかかりにくいし、止まったりする車両は、ありますよね。

そうすると「ベスパはそういうもんだよ」と言います。

これには悪気はありません。なぜなら多くのバイク屋は昔からベスパなんかにゃぁ構っちゃいられません。ひとまず動けば、納車してあとは「そういうもんだよ」で悪びれることはない。

 

ベスパには実は、もう一つのアキレス腱があります。それは配線です。

フライホイール内のコイルから、車体脇の配電盤に至るまでの配線の外部被覆を剥いてみると、皆様は絶望的な光景を目にします。

赤や黄色や水色の配線はクッキーのようにボロボロと崩れて、中の銅線は緑青をふいて、カッスカス。隣の配線と抱き合ってるものも。

まずはここを何とかしなけれは、永久にダメなのは皆様にもわかるでしょう?

ここはだいたい手付かずな車両が多いですね。大元なのに。

 

ただ、ここで重要な配線は、フライホイール内から、分電ボックス。そしてコイルの一次側の配線だけ新しくなれば、それだけで安定します。

なぜなら、車体を通ってハンドルまで行っている線。ブレーキスイッチと連動している線は、止める役目なので、ここが断線するとエンジンが止まらないということだけで、走ることには支障が無く。まして、あの車体の中の配線を新しくするとなると?

この話、わかる方だけその工程を想像してください。

​

ウインカーが出なけりゃぁ手信号で、ライトが暗けりゃぁ昼間だけ。全て走りに全振りすれば事は簡単です。

たとえ6Vのライトが完璧でも、夜走れるのは街場だけで、田んぼの畦道などは側溝に落ちるでしょう。

それほど暗いのが普通のベスパです。

私の50cc車両は、ライティングコイルのみを12V化し、ハロゲンバルブで走っていますが、それでも暗くて,ノーマルET3の6Vライトの半分くらいの明るさです。まぁ夜間走行は極力避けましょう。

 

そして、ブレーキを踏むとエンジンが止まる車両は、球切れです。これも嫌なら解除できます。

​

そして極め付けは、再生産車両のベスパには稀に、磁力が低下しているフライホイールが装着されている車両が多かった。これはもう部品の問題で、イタリヤ車にはないことではありません。何だか妙にライトが暗いような車両は、そもそも磁力が弱い場合があり。これは大根本なので、フライホイールを再着磁するか、全くの社外に交換しなくてはいつまでも不調です。この再着磁。できる工場はほぼ無くて、トホホです。

つまり、ダメじゃんという事を覚悟しながら、付き合っていきましょう。

​霧吹きの魔術

よくこんな話が聞かれます。

「キャブ掃除すりゃぁ掛かるだろう?」まぁだいたい普通のオートバイ屋の修理というのは、こういうもので、何でもかんでもキャブ。あわよくばキャブ交換。

​

今までを根気良く読んだ皆様には、どうやらキャブの前にやることがありそうだな。ということはお分かりになっていると思います。それがわかった皆様は、もはや世間並みのバイク屋より知識がついてますよ。

ついでに言うなら、ベスパのキャブは、詰まるほど複雑ではなく。幸運にもオイルと混合されたガソリンは腐りにくく、ガム状に固まっていなければ、キャブはおそらく大丈夫です。

 

要するにオートバイ屋は面倒なことはできるだけやらないと決めています。ましてや会社員で定時で上がりたいメカニックの方に、こんな不毛な、正解にいつまで経っても辿り着かず、おまけに原付の工賃しか取れないような車両にかまけている暇はないでしょう。

ベスパと向き合うのは、よほどこの車両を愛しているか、もしくは当店のように徹頭徹尾ヒマを持て余している店のみです。

良い混合機を作るための第一段階の圧縮工程が大切なことは、年寄りの繰り言でもう十分承知なさっていることでしょうから、私も皆まで言いません。

キャブはそれほど悪くならないとだけ覚えておいてください。

​君は何をするのか

ここまで基本を語って、ここからが上記のトラブルを切り抜けた方々へのセカンドステップへのご提案となります。

 

多くのベスパは50ccでしょう。実はこの排気量を乗りこなすのがもっとも難しいと覚えておいてください。

その訳は、あまりに非力すぎて、これを小気味よく公道の流れに乗せるには、全て予測による前倒しのアクションが必要とされます。

一例を挙げるなら、坂の手前で十分に加速して、ドロップさせない準備とか、すべて一呼吸前に操作して、後からついてくるパワーに預言を与えるライダーの経験値。

 

ということは50ccのベスパこそが真のエキスパートしか安全に流れに乗せられない車両なのです。

もしオリジナル50で小粋に流しているライダーを見かけたら。「ああ彼こそが流れ星。あらゆる経験を持った真のエキスパートなんだな」と理解していただいて結構です。

 

ということは、それほどの達人以外の多くの方々にとっては、もう少しパワーがあった方がイージーなのだな。

と、わかるでしょう。

こうなると皆様すぐにボアアップとなるでしょう。しかもどうせなら最大排気量まで。

ここで落とし穴があります。ベスパのブレーキというものは、50の排気量でも効きません。パワーアップなどすればほぼ無いのだと思っても良いでしょう。

 

そこに付随する問題として、ベスパには一次減速問題というものがあります。

わかりやすくいうなら、スプロケットを何とかしないと、いつでもトップ入りっぱなしみたいな車両になります。

じゃぁと目一杯高速寄りなギヤ比率なんかにした日ニャァ、全くパワー不足になり、クロスミッションを入れないなら、シフトアップした途端にストールするしまつ。ということは排気量とパワーに寄り添う必要があるわけです。

​これも当然、エンジン全バラしなくちゃ対処できませんから、はじめにエンジンを開けるときに、最終排気量イメージを持つ必要があるでしょう。

 

シリンダーは、ノーマルプラスアルファくらいならオリンピア。すぐに手っ取りばやく速くしたいならマロッシ。

きちんと慣らしができるならポリーニ。やはり速いのはポリーニですが、マロッシは初期クリアランスの許容があるぶんライフが短く。ポリーニは慣らしが不十分だとあっさりと焼き付きます。ちなみにポリーニの慣らしは四千キロです。

 

ここまでのことを言い切るには、自分の車両で散々余分なことをして辛酸を舐め尽くさなければなりません。

無論それは私のことですが.....。

​当店からの提案

では、当店ではどれほどの排気量を推奨するのでしょう。

これは言い切ると、75ccでやめときましょう。となります。これは全ての排気量の車両を作ってみて得た結論です。

​

たとえば、75ccならピナスコギヤという小さいギヤひとつを交換すれば済みますし、ブレーキ効かなくなっても許容範囲だからです。

それでも、ノーマル比で言えば、エンジン1.5個分になるんですから、これでも十分交通の流れには乗れます。最高速は80km/hくらいは軽く出ますから、十二分に危ない乗り物でしょう。ウカウカしてりゃぁすぐにでもガードレールおくりです。

無論、最低でも小型免許を持っていなくちゃダメで、ナンバーも黄色になります。

これのメリットは、30km制限からの開放と、二段階右折の回避です。

例えば60kmで流れるのは結構余裕です。

 

ではとそれ以上のパワーを求めると。

ブレーキ、キャブ、などの口径アップしたくなり、一気にお金がかかります。無論ショックなどの強化やチャンバーなども着けたくなったりもします。

その気になれば125ccまで出来るんですが。こうなるとほんと止まんないよぉ。125ccはノーマル50が3馬力のところ、12馬力くらいまでになり。真のヤバイレーシングになるとだけ覚えておけば良いでしょう。

唯一の方法は、前後ブレーキをET3用に交換する事ですが、この部品もいつでも手に入るわけではなくて、即戦力とは考えられないでしょう。

こんな具合のパワーですから、クラッチなどもすぐに滑ってしまいます。対策もいろいろあるにはあります。

 

こう聴くと、自分のバイクは125のET3だけどそれほど速くはない。と思う方も出てくるでしょう。

実は、ノーマルの125のシリンダーは3ポートシリンダーであり、チューニングシリンダーのポリーニなどは7ポート。詳しいことは分からなくても、どうやらノーマルより、混合機がたくさん入りそうなことはお分かりになるのでは?そこに持ってきて、ピストン形状が変わったり、燃焼室の形状が変化して、より高圧縮になったりと。同じ125でも、チューニング車両はヤバイのだ。ということです。

 

「俺は別に速くなくていい」という方も稀にいますが。その場合はノーマルチャンバーを必ず使用して、間違ってもバナナチャンバーなどは装着しないように。トロトロ走れなくなります。ウルサイしね。

 

日本人の悪い癖のひとつにコスパ的な最大公約数に初めから到達しようとするという傾向があります。

これは何かといえば、面倒だから全てすっ飛ばしちまえの思想とでも言えるでしょう。どうせなら大型取ってリッターバイクからみたいな。原付三年中型五年。それでも大型行かなくても良いか。というのが私個人の考えです。

ベスパばかりは、ステップを踏まないと危険が伴います。皆様の自身のために。

コスパを考える方は、初めからホンダの新車に行っていただけると、シヤワセが明日から来ますので、そのようにお薦めしています。

 

いろいろ語りましたが、ここまでのことを行うと、町内から出られる気がしなかったベスパも、晴れて県外へ山越えをしてツーリングできるような車両になります。私はこれで4回伊豆へ行き。あわよくばこれ一台あれば、バイク熱は治る気さえしています。

ベスパの燃費はチューニング車両でもリッター40キロ。かなり高燃費ですが、そもそもタンクが5リッターですから。この辺のやりくりも一工夫必要です。

​

どうですか?ベスパの真の姿を見てみたくなってきましたか?ここまでレストア的なことが一言もないことにお気づきでしょう。いいですか。ボディーや見てくれは二の次です。

これはレーシングカートであり、けっしてファッションアイテムではありません。人からどう見えようと関係ありません。そんなことは乗ってしまえばわかるでしょう。自分だけの日常がレーシングになるんですから。ファッションだと思っているのなら思い違いです。危険ですからやめときましょう。

 

今まで、不遇な境遇に置かれていたベスパたちに陽の目を見せられるか、また暗い倉庫へ逆戻りさせるかは、あなたのライダーとしてのスキル次第です。

シバタの口癖ですが、経験とスキルはカネでは買えない....。

 

あぁ長くなりましたね。それでも私は入り口を話したのみです。

これ以上のことが聞きたい方は、来店していただきシバタの終わらない能書にうんざりしていただいて、それでもなをベスパをいじってみたくなったら置いていってください。

料金ですか?ご想像のとおりガッチリかかりますよ。

 

 * 部品販売はおおよその物は揃いますが、当店では取り付け前提での販売となります。

ベスパの修理はプロでも非常に難しく、一般の方がご自分でできることはほとんどないと考えてください。

それを未認証整備といいます。公道走行を行う車両はご注意ください。

​​

Appia . mecccanica - Shibata ~ Racing

bottom of page