風のいなかみち
- shibata racing
- 3月7日
- 読了時間: 4分
山は雪が残り、全ての木々の歯が落ちた里には風が通り抜けます。しかし、もう春。
雪解けの水が清らかな水音を運び、フィールドに踏み込めと急かします。エンジンの眠りを覚ませと。

2025年3月7日
雨が上がると、風が吹く。というのが私たちの地域での定番です。
高校生の頃自転車部だった私は、雨の翌日が嫌いでした。猛烈な風が吹き。自転車が進まないからです。
前橋市は、どこからかやってくるお客さんに、「からっかぜツアー」みたいなネーミングで、自転車に乗ってもらったらどうですかね。いわゆる体験型観光として。
というくらい、今日は強風が吹き荒れています。天気こそ良いのですが、何せ気温が上がりません。
雪が降った数日前に、「レヴェナント」という映画を見て、とにかくフィールドに踏み込みたくて仕方ありませんでした。
時は、アメリカ開拓時代。山奥でグリズリーに襲われた主人公のグラスは、瀕死の重傷を負い。仲間に見捨てられます。
生への強い執着から、両足が折れた状態で、ほふく前進しながら自分のキャンプまで帰る。という話で。
それが厳しいんだ。
この主人公を見ていると。「なにがさみいだよ、マエバシあたりで」という気分になり。
いてもたってもいられず。この冬変更したベスパの新しいセッティングを見るために、山越えして長瀞へGO!
このベスパは、ご存知うちのベスパですが、うちの次男が新潟へ持って行っていたために、開発が途中でした。
晴れてまた群馬のバイクになったので、この冬は本格的なモディファイに着手していました。
エンジン、キャブ、排気などを変更し、ライトウエイトフライホイールを装着しました。
いわゆるCDIキットを装着すると、めちゃ軽るなフライホイールがつくのですが、こうした市販のフライホイールは、レース前提のため、とても軽いのです。むしろ軽すぎて、ストリートでは低速が無くなります。
普通に流せて、速い回転上昇が理想ですから、私はノーマルのフライホイールを旋盤で削ることにしました。
実際ノーマルのフライホイールはかなり重くて、これを削るだけで相当レスポンスが上がるということは、宇賀神さんのサイトで知っていましたが、何せ貴重なノーマルフライホイールですから、覚悟がいる作業です。
つまりは後戻りができないということですから。
テストっていうのは平地でちょこちょこ走ってもダメで、長めの巡行したり、登ったり降ったりしなくちゃいけません。
当然エンジンブレーキやシフトダウンのショックまで変化しますから、走り方自体を変化させる必要があります。
トルクが減ることと、そもそも少ない排気量と相まって、一番心配なのは急登で、ストールしないか?ということです。
回転の上昇が速いですから、シフトアップのタイミングも変わり、すぐにトップに入ってしまいます。
ノーマルのレシオのままのミッションですが、クロスミッションとさほど変わらない変速性能を手に入れました。
コーナーの侵入でシフトダウンしても、エンジンブレーキが弱まり、アプローチしやすくなりました。
あれよあれよで、長瀞八景に到着。

一番奥の左側に見えるのが武甲山です。雪が残り、切削跡がより生々しい。本当に痛々しい山容です。
林道には雪はほとんどありませんが、冬と戦った傷跡が至る所に折れた木々を落とし、行手を遮ります。
リヤエンジンのベスパは、こうした不整地でも、全く不安なく、素晴らしいハンドリングです。
心配したくだりのエンブレも自然で、今回のモディファイは当たりですね。
ひと汗ふたあせの格闘の後は、やはり「わかば」さんに立ち寄って、ロースカツと行きましょう。
この店には清水武甲さんという伝説のカメラマンが、昭和初期から撮影した武甲山の写真集があります。
いつも仲間とくるときはおしゃべりに花が咲いてしまい、写真集を見てる暇がありませんが、本日はひとりですから、じっくりありし日の武甲山の勇姿を見ましょう。
昭和の初め、まだ、削られる前の筋肉隆々の山肌の写真が惹きつけられます。
著者の武甲さんが書き記すライナーを読むと。
「これはただの山ではなく、ここにくらす人々の精神そのものである。」というようなことが書き記されています。
最澄が山伏を送り込むはるか以前から、地域の守り神として、精神そのものとして、山を仰ぎみた農村の人々。
雪崩のように削り取られた武甲山は、何一つ文句も言わず、今日も私たちを見ていてくれます。
私がなんだかんだ秩父詣を続けるのは、武甲山に元気な姿を見てもらいたいからなんでしょう。きっと。
当然映像も撮ってきましたよ。ぬかりなく。
