天気晴朗、師走のならい


毎年12月の声を聞くと、訪れたくなる場所があります、そこは秩父の東の山。
えっ、この間も行ったろうって?まぁあれは予行演習の様子見ですよ。この時期には何度でも行きますよ。
長瀞の東側の山は、みかんの北限の生産地として有名です。ここは風の布と書いて、風布という場所です。
北条氏の関東遠征の折に、小田原からみかんの苗木を持ち込んだのがその始まりと言いますから、もう500年です。この長い年月この斜面の一面がみかん畑になりました。
ここのみかんの特徴は、ひとことで「野性味」といえるでしょう。
まあ酸っぱい。でもジューシーで、だんだん甘さが広がってくる。という。店売りではお目にかかれない原種の滋味を持っています。
荒川を中心に広がる、長瀞盆地は、暖かい空気が上昇して、周囲の山々に広がります。
不思議なことに、山の斜面から、下降するほど気温が下がって、もう畑には、朝霜は絨毯のようにかかります。この気候を利用して、山の斜面でみかんが栽培されているのです。
先日、ハスクでリサーチした児玉の時代を超えたような地域から、今回も登り上げます。
みかんの買い出しには、ベスパと決まっていますから、もう一台のベスパも招集します。昨年もこの体制でこの時期にみかんを買いに行きましたが、今回はベスパによるディープエリア走破のテストもくりこまれています。テストっていえば許されると思ってるって?
仕事ですよ仕事。
もう一台のベスパも、久しぶりの調整作業をおこなったために、これがどういった影響を見せるのか、調査の意味もありますからね。
わずか一週間。
ハスクの時とだいたい同じ時刻に、児玉の林道を通過したのですが、もうほとんどの紅葉は終わりを迎え、道のきわの土手などには、ガッチリと雪のような霜が。路面も薄く凍結傾向にあり、かなりデンジャラス。といってもリアエンジンのベスパは、相当な走破性を見せ、スリップなどは起こしませんから、冬こそスタットレスで、ベスパ。というのもありなんじゃないでしょうか。

前回、思わぬ絶景に、良い写真が撮れなかった反省から、本日は中判カメラのローライフレックスを持ち込みました。
このローライに使用するフィルムも、いよいよ最後の一本となりました。FUJIのPRO160というフィルムは、もう生産が中止されてしまい。泣いても笑っても、これがもう最後の一本、12枚です。
昨今のフィルム事情は、もうすでに異常事態で、フィルム自体が売ってないのにも増して、こうしたプロ用の中判カメラ用ブローニフィルムというもののニーズがほとんどなくなってしまったことで、メーカーはかろうじて、数種類残していますが。
その価格は、もはや以前の5倍に跳ね上がりました。
私が購入した最後のpro160は、5本入三千円でしたが、現在別銘柄は二万円の大台に達しています。こうなると、もう趣味としては無理でしょう。
先日、わたらせ渓谷鉄道の撮影に赴いた時。三人の女子たちが、各々フィルムカメラを首にかけて、撮影していました。
リーダーらしき女の子は、もう一台、肩にローライを下げています。
口々に、「もうフィルム終わったー」なんて声が。こういう時、おっさんはできる限り近寄ることなく、暖かく見守ります。
「うん、良いよいいよ、フィルムはいいよなぁ~」と、志村の変なおじさんのような独り言を言いながら見守るのです。のぞきじゃぁありませんよ。
あの子達を見たこともあり、変なおじさんは、勿体ぶって残していた最後の一本でローライを締めくくろうと考えたわけです。
風布に入る頃は、かろうじて山紅葉が、道みちに残っています。里はもうとっくに終わったのに、やはりこの辺が、この地域の気温の優位さを物語ります。
今年のみかんも、やはり格別にジューシーです。いつもの店のお母さんに、今年も挨拶します。
今年のみかんの出来具合とみかん狩りの客足に、話が及ぶと。
「きないよ、おきゃくさん来ない」どうにも今年は客足が伸びず、困っている様子です。
「風布にはくるんだけどさ、ここまでは来ない」というので。「えぇここは風布ではないんですか?」と私は聞き直すと。風布はここより下の地域で、この場所は小林という地名なのだそうです。
「まぁおんなじ山なんだけどね」と、お母さんは諦めた表情です。
ここでもインターネットの情報というものに支配された、観光地の現状を垣間見ました。
こういうものは、自ら土地に踏み込んで、気持ちのいいコミニュケーションをとりながら、何年も通って人間関係と信頼を構築していくもののはずなのに。いわゆる宣伝上手な店だけに人が集まるという偏り。
結構お年も召しているお母さんですから、もしかすると、代替わりはしないかもしれません。
私は「また来年もこの季節に買いに来る」と言い切り、ひとネット購入しました。大量に入って600円です。
もっと買えって?こういうものは朝採取ですから、旬なうちに食べられる量だけ買って、また来年の楽しみにするっていうのが粋なんですよ。
小林地区からまた下に降りて、風布のエリアを通過します。
確かに、このエリアは皆野有料道路ともアクセスがいいので、早朝から駐車場にはたくさんの県外ナンバーの車が。
「こういうことね」と私は変に納得し、この皆野有料道路にベスパでなだれ込みます。
この合流からのトンネルまでのストレートは、上り基調になっていて、もう一台のベスパにはやや苦しい展開です。
「ここが登れて、トンネル走破できれば上等だよ」と私は言い放ち、85ccのベスパを後に残して、上り優位のET3で先行します。
すると緩い上り基調にもかかわらず、ついてくるではありませんか。
わりと高速セクションのトンネル内でも、ぴたりと後方に陣取り、車の流れに乗っています。
料金所で、40円払い、「どうだい、登るかい?」と聞くと、「普通に登りますよ」と本人も驚いた様子。
実はこのベスパ、こうした登りは得意ではなく、私が伊豆に乗って行った時などは、天城越えのループ橋で、20台以上の車に蓋をしながら、20km/hでやっと登った車両です。私も自分で作っておきながら、この状況は少し驚きました。
こうなると、この高速道路並みの有料道路で、三峰口まで行ってみたくなります。
あいにく、本日は秩父夜祭の日に重なっていて、やたらと秩父市内には近づかない方がいい予感がしましたので、街を遠望しつつ、三峰までGOです。
このペースは普通、焼き付きペースなのですが、今回のポリーニ85ccは決まりました。あっさりと三峰口の駅までついてきました。
やるなぁベスパ。こりゃぁ凄いね。

三峰口へ来たわけはもうひとつあります。
「恋する寄生虫」という、相当気に入っている映画があって。そのラストに近いシーンで、東京から電車に乗って、山梨方面の湖にいく、という設定があるのですが、途中の鉄橋の上を電車が走るシーンは、どう見ても長瀞の河原から見上げた景色です。
その終着駅に降り立ち、寂しい街に歩み入る時。どうもその駅前が三峰口と似ているのです。
それを確かめに今日ここを訪れたのが、もうひとつの目的でしたが。
主人公の小松菜奈さんがふらりと歩いていく駅前が、まさしくココだと確信しました。
映画人は、こうゆことが嬉しいわけです。
三峰口にも、お客さんがたくさんいます。
この日はSLの巡航もくりこまれていますから、冬の行楽を、多分「ラビュー」に乗って、都心からやってきたご家族達でしょう。
この分では、三峯神社も近寄れそうもありませんから、両神山経由の37号で、皆野の街に凱旋します。無論目的は若葉さんのロースカツ御膳です。
店前に着くと、「本日店内飲食できません」という文字が。助六寿司のテイクアウトのみできるようです。
店内を見ると、揚げ師の息子さんが不在でしたから、こういう事態になったのでしょう。
私たちは助六弁当を購入し、長瀞の自然史博物館ベンチで食すことになりました。
若葉さんで寿司を買うのは初めての体験ですが、ものすごいボリュームで、700円です。
博物館のもう散り際の赤いモミジの下で、弁当を広げます。
驚くのは「昆布か?!」と疑うレベルの分厚い干瓢が入った海苔巻きです。「こんな干瓢どこで仕入れてんだ」というレベルの分厚さと、煮込み具合。「素晴らしい!!」こんな助六寿司、毎日食べたい。やはり若葉さんのクオリティーは寿司のおいても無双ですね。
長瀞にもこの日は、県外からたくさんのご家族連れが、最後の紅葉を眺めに訪れています。
その紅葉を見ていた私は、最後のローライの一枚を、モミジのアップにすることに決めました。

「シャカ」私とローライ。ありがとう長いこと。君がくれた青春はずっと色褪せないよ。写真は色褪せるけど。
これでモテギのシャンボーンを撮影し、伊那でエディーシールも撮りました。各地へ赴いた雑誌の連載ツーリングも、ほとんどローライでした。
いよいよ40年間をともにした最後のシャッターは、真っ赤な紅葉でした。オヤジは葉っぱが好きだよね~。


