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阿弥陀堂がみまもる川

執筆者の写真: shibata racing
shibata racing
10月2日
読了時間: 4分




春はつぎつぎにおとずれる。この季節、ライダーは夢のような景色のなかをゆく。ライダーでよかったとつくずくおもう。


梅の香りで幕をあけるいつもの春も、ゴールデンウィークまでが最盛期であるようだ。

木々は花を落とし、透き通るような幼い葉をつける。その狭間におとずれる一瞬の黄色い光の束。

それが菜の花畑だ。





長野県飯山には、菜の花の楽園があるという。

千曲川、北竜湖、雪をいただいた斑尾高原。そして野沢温泉など。これほどライダーが好む条件を兼ね備える場所があろうか?


私は今日も時速100キロでタンクの上に伏せていた。

午前4時の上信越道、上田付近のローマンブリッジの上で、遠く蓼科の上空で明るく光る透明な月をみて。

澄み渡る朝の大気のなかで、鮮やかな黄色を発する花畑を想像した。その夢心地とは対称に、高速の表示板は先ほどから4度cを示している。この時ライダーの体感温度は、はるかにマイナス値をおもいしっているのだが.......。

なんだってこうも寒いんだ。動かない事がより拍車をかけ、あらゆる衣服の隙間から冷気が染みてくる。

ルート上の無数にあるトンネル内だけが唯一のオアシスだ。


今日のおともは、ハスクバーナSM610。

このモデルは、血中濃度が濃いこのメーカーの中にあって、めいっぱい一般に歩み寄っているツーリングバージョンだ。とはいえ限りなくレーサーライクなお姿は「雪の残った林道に、もしや踏み込めるかも」なんて、悪戯心も芽生えさせる、けっこう本気なバイク。


モータードは、実はオールラウンドツアラーであると信じて疑わない。どんなに混み合う連休でも、これで行く道は対向車にすら出会わない。林道昇って山の頂上で夕日を見た後、最寄りのインターからひとっ走りで帰って来れるオフ車が本当にどれくらいあるだろう?

特に北東北のいい感じの脇道は、かなり砂利道だったりするわけで、そこに臆せず入っていけて地元のおいさん達と気兼ねないコミニュケーションとったりして。そのうえ道を間違ったとしても簡単にUターンができてしまえるコンパクトな車体。そんな楽しみも含めつつ、東北道をリッターバイクなみに一気に走破でき、しかも燃費は常時リッター20kmはイク余力のある憎いヤツ(別にニクか無いよ)

それがSM610なのだ。





なにせ今日の目的は、青い空。黄色い菜の花畑。まさにハスキーカラーのなかにすっくと佇む黒いハスク。

という、なんともべったべたな画が浮かんでしまったから、撮りたくてたまらなくて始まった企画。

この天気ならそれも正夢になりそうだ。





「川中島は霧の中、鞭声は粛々として夜に乗じて河を渡り」朝靄に霞む千曲川の川縁は飯山へと続く。

飯山では例年ゴールデンウィークに合わせて、千曲川を見下ろす丘に菜の花公園を出現させる。地元の人々の努力によって、この場所は楽園になった。


この地域と菜の花のえにしは深く「朧月夜」にも唱われる。

未だ明けきらぬ川辺にたたずみひとり口ずさむ。「菜の花畑に入り日薄れ、見渡す山の端かすみふかし..」

と、あまりにピッタリと景色がシンクロする。あっこれは夕方の唄か....


木島平の山の端から朝日が射し込むと、菜の花の黄色は鮮やかに金色に輝き、紅い吊り橋がかかる千曲川の靄は透き通り川面がきらきらと輝く。

この瞬間に出会う為にここまで来た。こんな一瞬がうれしくてライダーをやっている。こころからそう思える。

この景色を見るならば、あさの6時までが勝負だ。日差しが少しでも高くなると感動はしだいに薄れてしまう。

とはいえ十分綺麗なのだけれど、朝の一瞬が永遠に思える程、良すぎるのだ。


冷静になって見渡すと、何人かの写真ファンがいた。その一人の御夫人に話しかけられた。

「何を撮ってらっしゃるの?」バイクの前の地面にカメラを置いてセルフで撮ってるのを奇妙に思ったらしい。

私の古い二眼レフを見て「父がそういうのをむかし使ってたわね」その声に、お父さんは洒落ていましたねと私が答える。

こんなふれあいが楽しい。





この近くにあるという阿弥陀堂に向かう。

この建物は映画のセットだ。しかし、さすがに「黒沢組」の仕事は違う。

映画「阿弥陀堂だより」は、ここ飯山が舞台だ。東京で心を病んだ女医師が、夫のふるさとの山や川に触れ、地元の人々の暖かさに、次第に心の扉を開いて行くイイハナシだ。

なかでもこの阿弥陀堂に一人棲む、老婆とのふれあいは重要な核となり、物語に彩りを添えている。

ハスクでブロォォと昇って行くと、地元の人に怪訝そうな表情で見られる。「すみません阿弥陀堂はちかいですか?」と聞くと急に表情が和らいで「ああ、すぐ上だ」この村には、すでに阿弥陀堂は根付いているみたいだ。


かるく50年はここにある、という風情で阿弥陀堂はあった。

「ちかくの畑には入らないで。おうめ...」と、あたかもおうめさんが棲んでいるような気配がそこにある。

縁側で私もひといきつく。山の中腹にあるこの場所は、石積みの棚田に見守られ。セットとは思えないぬくもりを感じさせてくれる。


見下ろせば菜の花に縁取られた千曲川が、泳ぐように今日もこの地域に清い恵みをもたらしている。

軽く深呼吸して、またツーリングへと気分をリセットした。




 
 

Appia . mecccanica - Shibata ~ Racing

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