旬を騙る
- shibata racing

- 5月28日
- 読了時間: 9分
更新日:5月29日

お客さんから、「オイル交換は何キロですか?」と聞かれることがある。
今日交換したとしたら、明日また交換しても良い。というのが厳格な答えになる。
つまりは、それほど熱が一旦加われば劣化する。では、それでダメかといえば、オイル交換をサボってエンジンが焼き付いた車両は見たことがない。流石にオイルがそもそもなくなってしまっていたような車両は焼きつくこともあるのだが。
燃費が落ちたり、回転上昇が鈍ったりはするが、だんだん悪くなるから乗ってるライダーは気が付かない。
グレードに関してはどうだろう。誤解を恐れずにいえば、公道走行する限り「入っていればなんでもいい」というのが答えになる。
メーカーや、粘度などの違いは、騒音や乗り味には影響が出るが、厳密にいえば明日はもう劣化しているのだから。現在売られているオイル全てが、公道走行の基準には全て達している。
ここで問題なのは、その良いフィーリングがいつまで持続するか?という部分で違いが出る。
大昔のエンジンオイルは植物油で、カストロールR30というものだった。
それは一日で劣化するので、走行後には必ず抜いておかないとオイル経路で詰まりが起きるといわれ、私もこのオイルをサーキットで使っていた時は、予選と決勝で二回交換した。そして走行後すぐに抜き取ってから家路についた。
この植物オイルを劣化しないように鉱物油にしたり、化学合成油にしたものが現行のもので、そもそもそれほど旬が短いものがオイルというものだ。これは食品でいえば合成保存料に着色料が添加されていると思っても良い。
常温で腐らないツナサンドが良いか悪いか?それは個人の考えだ。
しかし、いまだに最高の油膜ができるものが、このカストロールの植物油だったといわれていて、あらゆるオイルがこのオイルのレベルには到達してはいないようだ。その恩恵だったのか、私はこのノートンで、サーキット走行中エンジンを壊したことはなかった。あの独特のオイルの焼ける匂いは、サーキットの香りの象徴だったが、残念ながらもう市場にはない。
ではフロントフォークオイルなどはどうだろう?
これも言い切るなら、サーキットで予選一回走ればもう熱に冒され、交換した方がいい。ブレーキオイルも然り。
多分、勝つ人間はそのようにするに違いない。
ある有力チームは、予選の後、タイヤ、オイルは言うに及ばず、キャリパーAssyと、ローターを新品にしていた。
これを見たとき思ったのは、素人参加のサンデーレースでスゲェな。という感想だ。無論、決勝は一人舞台で圧勝していた。
ちなみに予選というのは大体10分。おおよそ10周だ。
大昔のこと、京都の師匠のカスノさんに、レーサーのTZの相談をしたことがある。
自分は新車を買う予算がないので、中古で始めたい。という気持ちを伝えると。
「お前はレースに出たいのか?それとも勝ちたいのか?」と問われた。
私は当然勝ちたいし、チャンピオンにもなりたいのだ。と、レースに出てもいないうちから言い切った。
じゃぁと前置きして師匠は言った「お前と実力が同じ相手とトップ争いをしていたとして、相手が新車に乗っていたとする。お前は中古で勝てるのか?」
これにはグゥの根も出なかった。1秒を争う世界では、相手よりも少しでも有利な状況で戦うことで、少しだけ前に出られるということだ。もしくはフレディースペンサー並みに誰も寄せ付けないレベルの実力をつけること。できますか?
では、公道においてはどうだろう?これはいつもお客さんに伝えるのだけれど。6m60km/hの法則に則るなら、「どうでもいい」話だ。
整備をするのも自由。乗りっぱなしも自由ということ。
小型二輪の場合は車検というものがあるので、定期的にメカニックが観る機会が設けられているが、こと250cc以下の車両はその限りではない。
しかし、その両者が、信号待ちで隣同士で並んでいることに気がついてる方はいるだろうか?方や完全整備、隣は10年未整備。これが道路交通法だ。
怖いと思えば整備に出せばいいし、わからないなら止まるかぶつかるかするまでそのまま乗ればいい。それはオーナーのご自由。
でもブレーキが効かなくなった車両に突っ込まれた小学生は、たまったもんじゃない。
他人と共生するのも公道走行の理念だろう。責任という考えがないなら、歩くしかない。
じゃあ整備などしなくてもいいのか?というと、これが面白いもので、機械というものは、オイルひとつ差しても、グリス一箇所塗り直しても、ボルト一本締め直しても、ライダーには如実にその変化は伝わるし、走行フィーリングは気持ちよくなる。
バイク屋は経験からそれを知っているので、お客さんにはできるだけ気持ちいい思いをして欲しいから、おせっかいを焼く。
一度でもその変化を体験したお客さんは、乗り味の劣化を感じ取り、それをできるだけ元に戻そうと考えるものだ。
オイルの旬は一日だが、タイヤはどうだろう?これも厳密にいえば、サーキット一周したら大幅に摩耗する。
「俺はレースをするわけじゃぁないから」というお客さんがいるが、そういう方に限って、タイヤ交換はケチって、ブレーキとかを強化したがる。フォーポッドキャリパーや、ラジアルポンプマスターなどをつけたら、もっとタイヤの負担は増えるのにも関わらず。
ここも、言い切ってしまうが、ノーマルで全く問題ない。
効きすぎるブレーキはフォークを歪ませて、フレームをしならせる。劣化したタイヤは最も簡単にスリップし、氷の上のように何もしていなくても転倒が誘発されたりもする。
「とまらないから」というお客さんには、「じゃぁもっと早くブレーキをかけろ」というし、「むしろ飛ばすな」と助言するようにしている。
ベスパなどはそもそもブレーキはないのと同じだけれど、私は困ったことがない。
ブレーキをかけないで走る技を習得することは、ライダーとしてもはや必須だろう。
「止まらないのではなく、止められない自分を」省みる必要がある。
停車という行為は結構難しくて、ロック寸前がもっとも効率が良いが、ロック寸前を見極める練習をした人にあったことがない。
私は商売柄、どんな車両でも、一度はロック寸前を見極めるようにしている。これはお客さんの車両は無論のことだ。
そうしなければ、安全な試運転にも、はなからならないだろう。
昔、散々ブレーキングドリフトというものを走行に取り入れていたが、あの行為こそが、ロック寸前まで追い込んで、テールを流して、コーナーに入るという行為で、これは一見危ないように思えるだろうが、実はロックのエリア、スリップ領域をあらかじめ知ることで、初めての峠などでもより安全を見極めることができる。要は、弱いスリップ状態なら、それ以上のスリップまで行かなければいいわけだから。スリップを自分の意思でコントロールできることになる。それが結果的に安全マージンの見極めになるのだ。
スロースライドを常用するとタイヤの温度も上がり、より安定感が増すことも見逃せない副産物だろう。
ドリフト走行は、路面温度、タイヤ温度に大きく依存するから、冬の一発目などは、決して飛ばさなくなる賢人になれるだろうが、そんなことばかりしていると、リヤタイヤが消しゴムのようになくなっていってしまうのが玉にキズだ。
近年、旧車のレースが盛んなようだが、あれはまさしくレースじゃない。
どういうことかというと、純粋に争うより壊さないことに注力が向けられていて、いわばセーブしながら勝負する。というものだからだ。
私自身、新車でも旧車でもレースに出たけれど、旧車レースは一度もスロットルを全開に出来なかった。
その前に「壊れたら」の不安要素が大きくて、ひたすらストレスだった。スペアーを豊富に持ってるのならその限りではないが。
そこにまつわる心配は、金属疲労という外からは見えない破損だ。
人間だって歳をとれば骨が脆くなり、躓いただけでも骨折する。エンジンという金属もそれと同じ。熱が入って冷やされて、それが20年も続けば、今、動いてるだけでも奇跡と言えるだろうう。
ましてそれでレースに出て、全開する?全壊を覚悟なら好きにすればいい。
でも、大事にしたいなら猫を撫でるように走らなければならない。
これは全ての旧車についていえることで、もしどこかを強化すれば、弱いところにストレスがかかるし、そこを治せばもっと弱いところが顔をだす。イタチごっことなる。つまり、旧車に500万円出すことの異常性に、一刻も早く気がつく必要がある。お古だよソレは。
以前、目の前を走っていたSRXが、筑波の裏ストレートで蛇行したと思ったら、吹っ飛んで転倒した。当然練習走行は赤旗中断。
レッカーで運ばれてきた車両のエンジンからは折れたコンロッドが飛び出して、コースはオイルの海。
吹っ飛んだライダーのその後の安否はわからない。
おそらく、一度もクランク交換をしないまま、サーキット走行に持ち込み、壊れるまで全開にしていたのだろう。その彼が私のすぐ前を走っていた。これが旧車のレースという一瞬先は闇の遊びだ。
最近見かける商売で、旧車を一年寝かしたら、全バラ点検しろ。という動画とかを出している業者がいる。
こういうことを子供騙しと言って、知らない素人に不安を煽り、金儲けをする手段だ。
言い切るなら、10年寝かしてもエンジンは掛かるし、すぐに全開にしたりしないで様子見すれば、エンジンなど開ける必要はない。
掛かればそれでいい。
心配なら半年くらい近所を走って、問題が出なければ県外にツーリングに行っても大丈夫だ。
「エンジンオーバーホール」という謳い文句を言ってくるお客さんもいるが、私はその方に聞く。
「どこまでやるのか?やっても新車にはならないよ」という。
これが金属疲労というもので、熱ですでに歪んだケースまで新品にできないのだから、フルオーバーホールなんていうのは土台無理な作業なのだ。そこがわかっている業者なのに、あたかも200万円でエンジンを作れば新車になるかのように素人を騙す。
いいですか?新車は50万円から乗り出しで買えますよ。
では、これからオートバイに乗ろうとする殊勝な皆様には何をお勧めするのかといえば、一も二もなく新車を購入することをお勧めする。「カッコ悪いとか。つまらなそう」とか言うんじゃないよ。だってそれが今の新車なんだからしょうがないじゃないか。
これは余談になるけれど、私がやたらうるさいコーヒーの旬を語るなら。どうやら焙煎から一週間ということになるという。
日々明確に味や香りが変化するから、粉で挽き売りされた、いつのものだかわからないスーパーのコーヒーについては、考えないで欲しい。コーヒーも生鮮食品だということだろう。
1975年開店の、足利に今もある、とある珈琲店は、毎朝6時30分から開店する。そのために、マスターは深夜1時から焙煎を始めるという。50年間だ。
今はもういないマスターの師匠に、「見てもらっているから。」という心意気で。
その店のパンフレットにこのような一節がある。
「なくてはならないものはたくさんはない。玄澄きそのすがたは示え、我と汝の関係にこそ生かされよ」


