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そこに残るもの

  • 執筆者の写真: shibata racing
    shibata racing
  • 3 日前
  • 読了時間: 4分

更新日:2 日前


あたりまえの日常。普通に暮らす毎日。それがあたりまえじゃなかったことに気がつくのは、ずいぶん時間がたったあとです。つまらないと思ってもそこに残っていれば財産です。





2025年4月27日



デジカメというものを手にいてれ、それまでの不自由なツーリングフォトが一気に変化しました。

200枚とか撮れる。これに気をよくした私は、それこそ有象無象のツーリング風景を残しました。

「まったくつまんねぇ景色だな」その時はそう思っていたんですけどね。なくなるとね....。


この写真の違和感に気がついた方は、ツウです。

「なんで、眼鏡橋じゃん」ですが。

今この場所には、柵ができて、舗装されて、狭っちい場所になってしまったのです。

かつては、車寄せがあって、記念写真の定番スポットでした。


世界遺産を否定しないけど。こういう誰からも顧みられなかった場所までが、観光客で溢れる現在を、この時の私は想像しなかったんですよね。


残る場所と、消える場所。残るバイクと、失くすバイク。

人生ってゆうのはこれの繰り返しですよ。


この季節は、春。碓氷峠の新緑が、いっせいに芽吹く寸前の一瞬です。

まさしくこの季節、私は今は無き、名湯へ向かうのが毎年のルーティーンでした。

そこは霧積。映画「人間の証明」の舞台となったあの場所です。




霧積ダムから、山に分け入る林道は、温泉までかろうじて舗装されています。

その先には二軒の温泉がありました。

私が毎年訪れるのは、霧積館です。


道が切れる場所。

ここは登山道の入り口にもなっています。

水車が豪快に回り、山の一軒家の情緒を否が応でも高めてくれます。

今はもう全てが跡形も無くなってしまいましたが。





宿は、立ち寄り温泉をやっていて、誰でも入ることができました。

玄関に入ると、奥から腰が曲がったお爺さんが静々と現れます。


「立ち寄りお願いします」「はい500円ね」

システムはこれだけです。

長い廊下の先は、緩くカーブしています。

途中には広い給湯室があり、ここが昔から、山へ向かう基地だった名残を感じます。

タイルの洗面台、アルマイトのカップ。

一体どれほどの語らいと、笑顔が交差したのでしょう。廊下の奥から聞こえる笑い声は、空耳ですね。


廊下が曲がるあたりに、温泉の効能を示す表が示されます。その先にリニューアルされた階段があり、その脇には灰皿が据えられた談話スペースが設けられます。湯浴みの後のひと時ですね。


この季節は、いつも私ひとりの貸切状態で。のびのびと体をほぐすことができました。天窓から差し込む光、周囲に設けられた窓から、湯船に光が揺れて交差します。

誰もいないからこそ、こういう写真も残せました。





六角形の建物に、六角の湯船。透き通るお湯は、肌あたりが緩く。温度は、ぬるいのです。

私は熱い湯がダメで。むしろ伊香保並みのぬる湯が好みですが、霧積はまさしくちょうど良い温度でした。


かつて与謝野晶子もきたようで、俳句などが脱衣所に掲げられています。

恋おおき女歌人は、一体誰とこの温泉にやってきたのでしょう。

「花の命は短くて」とはいえ、あらゆる温泉地にこの女流歌人の痕跡が残っていますから、さすがに進んでたんでしょうね。


映画「人間の証明」は、西条八十の帽子。という詩が、物語の核をなしています。

殺された黒人青年が残した、「ストーは」というメッセージを「ストーハ。つまりストローハット」であると気がついた棟居刑事は、殺されたジョニーの本当の母親を探して、ニューヨークへ飛びます。


ついには犯人を追い詰めた先が、この霧積へ続く山道でした。

「母さん、あれは好きな帽子でしたよ」と謳われる詩は。失くしたものを懐かしむ望郷の歌でした。

それは心の風景であり、母のぬくもりでもあったのです。

今はもうない、あの頃の日常。




初期のデジタルカメラっていうのは、今ほどパキパキじゃなくって、フィルムの延長にあったかもしれない。

それでも当時は、ヤだったけど。

これはリコーGRデジタル初期型。800万画素のカメラだった。もう壊れて、今は2台目。

少しでもISOを上げるとノイズだらけになって、いつもISO64常用だった。

この写真、今見るとダメな構図だったなぁ。


そうだよ、写真っていうのはね、撮っておくもんだよね。記憶っていうのは個人の財産だけれど。それも....。

何もかもがなくなった後に気がつくんだけど。



 
 

Appia . meccanica - Shibata ~ Racing

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