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土用のころには

  • 執筆者の写真: shibata racing
    shibata racing
  • 7月28日
  • 読了時間: 4分

更新日:7月29日


世間一般に、土用といえば鰻を食べる、といわれますが。そもそもそれはいつ頃からはじまったのでしょうか。今年は土用の丑の日がニ回あるということですが。我々庶民におけるこの夏の風物詩も、すこし疎遠になった今日この頃。



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2025年7月28日



国産天然鰻といわれるものが、この季節になると店頭に並びます。コンビニスーパーその他諸々、鰻弁当がガサっとつまれますが、米不足の日本。大方売れないだろうものを、店頭でロスにするわけにもいかないからなのか、今年はあまり大っぴらに、そんな光景に出会えません。恵方巻もそうですが、季節のものは、ロスなく適正価格で、皆様の食卓に並べばいいですね。


土用というのは、暦の話で。これは一年になんどもあるということは、意外に知られていません。そもそも暦というものがその日常にある方は、今やほとんどいないでしょう。この暦には、吉方や凶方、やっていいことわるいこと、などが詳しく記載され、それが毎年、年回りで変わったりします。そのうえ生まれ年で、良くも悪くもなりますからややこしい。

天保年間は、米不足。夏には鰻屋もあがったり。そこで平賀源内は知恵を絞って、「本日土用丑の日」と紙に書くと、「これを店先に貼っておけ」と鰻屋に渡します。するとなぜか、鰻屋が客でいっぱいになった。というのがことの始まり。それからこの食習慣は今に至るようです。


夏の土用は、体力の消耗も激しいですから、土いじりをしない、転居をしない、新しいことを始めない。というべからずが、いくつかありますが。なにぶん、少し動けば汗だくですから、ようするにじっと静かに体力を温存しておけという、先人からの有り難いお言葉だと受けとれば、おそらく健やかに暮らせるでしょう。皆様の中に日常的に鰻を食べる、なんていう豪気なお大臣が、いるかもしれませんが、私たちには、この食べ物はなかなか縁が遠い。もし店に行ってこれを食べる。それも家族で。いやいやなかなか、ねぇ。ただ、こんな庶民とは縁がない食べ物ですが、食べれば美味いし、精もつく感じがしますから、私も年に数回、これを食します。足尾という街がかつて存在し、そこの中心は通洞というエリアでした。なぜ、かつてかといえば、ここから出る銅が街を潤し、多くの人々がここで暮らしたのです。そこには花街まであり、芸者さんまでいたといいます。


このまちで一軒きり、といった風情で、暖簾を靡かせている店が、「うなぎの川本」です。近年では、わたらせ渓谷鉄道が、お客さんを呼び込み、恐る恐るガイドブック片手に、ご婦人、カップル連れ立って、この廃墟に近い街を歩く姿も見受けられます。ちょうどお昼頃に、通洞に着きますから、何か食べたくなるのも道理です。川本さんにそんな観光客が入ろうとすると「結構待ちますか?」「待ちます」「外で待ってください」車で来れば「駐車場どこ?」「駐車場はありません」と、ことごとく店には入れません。一見イヤな感じですから、プイッと出て行ってしまう方も多数います。

この店はご高齢の店主が、ワンオペで切り盛りしますし、その日に出せるうなぎの仕込み量もわずかですから、バタバタ来られても捌けないのです。なかには静かーに入ってくるお客さんもいて、するとそのかたを少し見て「どうぞなかが空いてます」と入れてもらえます。これだけ聞くと「なんて横柄な商売だ」と思う方も多いでしょう。しかし、基本的に川本さんはいい人で、美味しい天然鰻を安価で、心あるお客さんにだけ食べてもらいたい。と考えているだけで、電話で予約したり、ネットの口コミ見たり、などということは、ここでは通用しません。電話には出ませんから。


値段は市場の半値で、ご飯が少なくなると、足してくれて、うなぎのタレもかけてくれます。サンショや、山菜なども、川本さんが山に入って採ってきます。時々「余分なものつくってみたんで」とかいって、鳥の煮凝りなんかもつけてくれてりします。先ほど入ったカップルに「女のひと、お茶はここにポットがあります、自分で入れてください」と指示が。シズシスと女性が私の脇を通ります「冷たいやつはそこの冷蔵庫の中に入ってますから」と私が苦笑いで教えます「あっありがとうございます」戸惑いながらお盆に乗せて、席へ持っていく姿。これが日常です。肝心の味ですが、天然うなぎのさっぱりとした風味に、甘くないタレがかかります。上というのは、鰻がニ段で出てきます。基本、鰻自体は一緒です。

お客さんとふたりでここを訪ねて、「今日は上を頼もうかな」なんていうと「もう今日は貸切にしちゃう」なんていって、貸切の看板を店の入り口に出したりします。ふたりだけなのにです。「こうやっとけば、断る口実ができちゃうから」と豪快に笑います。


土用の頃になると、川本さんを思い出して、また行きたくなってしまいますが、この繁忙期に、川本さんの負担にもなりたくないような気もして。もう少し落ち着いて、一息ついた頃、また行きましょう。


凍えるような冬に、なぜか貸切で。積もる話をするのが好きですね。



 
 

Appia . meccanica - Shibata ~ Racing

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