継承の責任
- shibata racing

- 1月21日
- 読了時間: 5分
更新日:1月22日
どのような世界でも伝統の継承は重要な問題のようです。老舗の店とか、歌舞伎とか。
音楽の世界でもそれはやはりあって、新しい分野を作り出すのと同じくらいその当事者は真剣に携わっています。

2026年1月21日
今年もやってまいりました、この企画。私のレコードうんちくの回。第一回目となるのは、この方ですね。「ジャックホワイト」です。
これ、私が一方的に、思い入れを語るシリーズなので、けして皆様にお勧めするわけでも、聴いてみてください。というモノでもありません。一部では非常に不評で。「レコードの時は読みません」などとも言われているシリーズです。興味のない方は本日はこれで。
ブルースというものを本格的に聴き始めたのは18歳でしたね。
美術学校で、先輩の音楽談義に混じっていた時のことでした。ある方がブルースの話をしていました。
「俺もブルース聴きますよ」と無防備に私が言った言葉に、みなさん反応して「何聴くんだよ」という問いが。
「松田優作ですよ」と真顔で言うと。一斉に噴き出されました。
なんで?私は高校生の頃から、松田優作のブルースが沁みていましたから、笑われる筋合いはない。と言う表情で、対抗します。
「なんでですか、結構いいよ優作の歌は」と私の反論は軽くあしらわれたのですが、その先輩が後日、私にブルースのカセットを作ってくれました。
シバタ用に初歩のやつ集めておいたから。といただいたカセットには、主にリズムアンドブルースという分野のものが集められていました。ウイルソンピケットやソロモンバーグ。オーティスやJBなどですね。
このカセットはかなりヘビーローテーとなり、車での移動中。私のサニーのステレオからは、この破れたような声のカセットが、いつでも流れていたのを覚えています。
入りが良かったのか、その後どんどん本格的なディープサウスへと南下して行き。最後には日本語で、サンハウススタイルの曲を作って録音するに至ります。
「ウワサになるほど」という12小節のブルース曲で、その内容は。
「人の噂は小さな声で、あんまり聞こえちゃ美しくない。人の噂はちぃさなぁ声でぇー、でも本人にはよぉく聞こえてるよぉ〜」というのが一番の歌詞ですね。そして二番は
「人の噂は七十五日、長いようでも2ヶ月半だ、気にかけるなよ大したことじゃないよ、忘れてしまえば今日までのことさぁ」という。
まぁ好きなんでしょうけど、どうにも違う。
悩んだ末に辿り着いた答えは、「血にない」と言う現実でした。つまりは私のバックグラウンドに、このブルースという音楽はなく。あるのは青江美奈やバーブ佐竹。そして松田優作までくらいなもので。どうにも無理があることに気がつき。
もう少しライトな、バディーホリーの路線へ舵を切ったわけです。
ブルースというのは、南部の奴隷時代の黒人が、その憂さを晴らすため、夜毎酒場に集まって、絞り出していた魂の叫びだったのです。
鞭も打たれていない、綿もついんでいない私が歌えるわけはないのです。無論、わかるわけもない。
しかし、このアメリカで生を受け、そういう地域で幼少期を過ごした白人たちの中には、その音楽を吸収し、白人社会にも通用するスタイルを構築するような歌手も現れます。エルビスや、バディーホリーなどです。
コレに憧れたイギリス人たちの中から、ローリングストーンズや、レッドツェッペリンなどが現れますが、やはりそこは国が違う。ブルースは薄められ、違うロックへと変容していったのでした。
このアメリカ発祥の音楽。
そこの現代を担うアーティストにとっては、ブルースを演るというのは、いわば伝統芸能の継承とでもいえる行為です。
周り中に本物たちがいる中で、行うブルースですから、その責任とプレッシャーは半端ではない。
そこでジャックホワイトです。
ジャックのブルースは形式こそブルースですが、けして過去をなぞることはしません。そこにあるのは21世紀の白人の演るブルース。という意識に明確に彩られています。それはエルビスやバディーホリーを通過して、ジミーペイジのことをきちんと消化して。では、俺はどんなブルースをやる?と自らに問いかけるような。
彼の作り出すブルースは、歴史そのものであり、未来への答えであり。このブルースという音楽の発明に対する明確なリスペクトを感じます。
彼は徹底的にアナログにこだわり、録音環境からアウトプットまで全てアナログで繋ぎます。
コレが高じて、レコードプレス工場から、販売システムまでを構築し、世界中に向けレコードを配っています。
このソロ3枚目となるこのレコードのギミックはものすごくて、A面を普通に掛けようとしても、ループが止まらず全くその先に進みません。なんとレコード内側に針を乗せると、外に向かって再生されていくというプロセスです。
そしてB面の一曲目に関しては通常通り外から再生するのですが、一曲目の溝が二重になっていて、針の落とし所によって、二種類のバージョンが再生されます。
一つはロックバージョンで、もう一つはアコースティックバージョン。同じ曲なのですが、全く雰囲気は異なり、どちらが再生されるかはその時の運次第。狙ってそのバージョンを再生できません。
こういう楽しさこそレコーどなのだと言わんばかりの強烈なメッセージ。
収録される曲たちも、そのジャケットもまるで悪魔のよう。
「ブルースってのはなぁ、悪魔と取引した音楽なんだよ」というジャックのメッセージでしょう。
見事にブルースを現代に昇華させ、過去をなぞることなく、全てがフルオリジナルで、未来へ繋げるジャックホワイトに喝采あれ。
俺は降参だ。聴く側に回る。


